第5話
=Blowin' The Blues Away=
■レコード屋で“ジャケ買い”A
ブルー・ノート・レコードは
ハードバップ初期の貴重なコレクションを収録するだけでなく、
最も人気を博した
ファンキー・ジャズの
レーベル
としても大成功をおさめますが、
その稼ぎ頭となるのはおそらく
ホレス・シルヴァーでしょう。
彼は、ピアニストとしてよりも作編曲、バンド・リーダーとしての才に優れ、
そのポップなイメージのせいか、コワモテの評論家などの評価はあまり高くないようですが、
ジャズ・メッセンジャーズの立上げに関わり、その後は自己のグループで60年代の
ファンキー・ブームの立役者となります。
ジャズを一般社会へ浸透させたことへの貢献はもちろんのこと、
ジョー・ヘンダーソン、
ウディ・ショウ、
ランディ・ブレッカー他多数の新人を世に送り出し、
さらにはその後の
ハービー・ハンコック、
チック・コリアなどの音楽にも大きな影響を与えています。
ちなみに、ファンキー(Funky)という言葉の意味については
様々な書物に解説がありますが、古い辞書を引くと、
1.おくびょうな
2.いやな臭いのする
とあり、あまり良い意味ではありませんが、
比較的新しい辞書ではそれに加えて、
1.土くさい
2.いかす
3.官能的な
4.ブルース、ゴスペル調の
となり、肯定的な意味と音楽に関連する意味が加わっています。
ブルース、
ゴスペルの影響のみならば、
ソウル・ジャズとしても事足りるはずですが、
どうもこの時代のジャズの“ファンキー”という言葉にはやはりソウルだけでは表現しきれない意味もあるようです。
そういう意味ではのちにロックなどで使われるファンキーからの派生語、ファンク(Funk)という言葉とも
ちょっとニュアンスが違うように思えます。
私なりには、この50年代のジャズの“ファンキー”とは、黒人音楽にある種の都会的洗練が加えられ、
さらには遠く遡ればルーツを同じくする、ラテン・ヨーロッパ、ラテン・アメリカの音楽の味付けがされている
ということだと考えています。
(この辺については機会があればもう少し方法論的な話を交えてお話できればと思います。)
《Blowin’ The Blues Away》
ホレス・シルヴァー・クインテット、1959
このアルバムも「ジャケ買い」をして成功した代表的なもの。
54年のジャズ・メッセンジャーズ時代からの、
The Preacher、Senor Blues、Doodlin’など、
すでに数々のヒット曲を生んだ後の、
シルヴァー黄金時代中期のアルバムです。
ブルー・ノート・レコードには
プロデューサー :アルフレッド・ライオン
録音エンジニア :ルディ・ヴァン・ゲルダー
ジャケット・デザイン:リード・マイルス
| Blowin’ The Blues Away
|
の、三羽ガラスが揃っているのは有名な話ですが、
50年代から67年にライオンが事実上ブルー・ノートを手放すまでのジャケットは
そのほとんどをリード・マイルスが手掛け、なかなかお洒落なジャケットが揃っています。
また、写真を使うジャケットについてはこの三羽ガラスに加え、ブルー・ノート設立時からの共同経営者、
フランシス・ウルフが撮影したものを多く使用し、そのジャケットもなかなかの出来栄えです。
美術系には全くの門外漢の私ですが、中でもこのポーラ・ドナヒューの絵を使ったジャケットはお気に入りで、
これのおかげでその後ロートレックを始め、少しは美術鑑賞を楽しめる人間になりました。
中身の方は、
ブルー・ミッチェル(Tp)、
ジュニア・クック(Ts)、ジーン・テイラー(B)、
ルイス・ヘイズ(Dr)
表題曲のBlowin’ the Blues AwayとSister Sadieが有名で、特にSister Sadieは多くのミュージシャンに
カバーされています。
Blowin’…はアップテンポのブルース形式で、ちょっと凝ったアレンジが施され、面白い仕上がり。
ライナー・ノーツを書いた
アイラ・ギトラーは、この曲をSmokerと表現しています。
今だに煙草をやめられない私には「喫煙者」としか思えなかったのですが、どうも粉塵を巻き上げて走る
「豪速球」、「超特急」という意味らしく、まさにその通りの爽快な演奏。
Sister SadieはゴスペルなどのWとTの和音が反復するコード進行の曲で、アーメン・ナンバーといわれるもの。
また、この種の曲でアドリブに用いられる「黒人節」ともいえる一連のフレーズは
ブルー・ノート(・モード)といわれ、
通常の西洋音楽の規範である、単一の音階には所属しません。
ブルー・ノートを単にフィーリングで演奏する時代から方法論的にアプローチする時代へ、の直前の演奏でしょうか。
「素朴で土臭い」音楽と、よりモダンな音楽との間には、
実は方法論的に深いつながりがあり、このアルバムの時期に並行して、
マイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンはすでにモード奏法への
アプローチを始めています。
ブルー・ノート(・モード)についてもう少し詳しく知りたい方は
山下洋輔*さんの著書「風雲ジャズ帖」の「ブルー・ノート研究」を ご参照ください。
そういえば、この曲の演奏をジャズ・クラブで聴いたコルトレーンが
「このアーメン・ナンバーの曲名は何?」
とシルヴァーに訊いたというエピソードも有名。
ブルー・ミッチェルは一般的には知名度があまり高くないようですが、
ジャズ・ファンでこの人の名を知らなければ、「モグリ」と言われても
仕方がないというような存在でしょうか。
両曲とも溌剌とした、ラッパらしいラッパで、小気味の良いソロを 取っていますが、バラードのPeaceでもすばらしいソロを取っています。
この曲も世間では話題になることがほとんどないのですが、 とてもよいバラードで、私は学生時代にずいぶんカバーさせていただきました。
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シルヴァーは、原則テナー・サックスとトランペットの2管をフロントにするという
比較的保守的なスタイルを守りましたが、特にトランペッターの人選はすばらしい眼力で、
アート・ブレイキー時代も含めると、
クリフォード・ブラウン
ケニー・ドーハム
ドナルド・バード
アート・ファーマー
ブルー・ミッチェル
ウディ・ショウ
ランディ・ブレッカー
など、そうそうたるメンバーを起用。
その中でも、ブルー・ミッチェルは比較的長く在籍し、十分他の大御所に伍して
フロントの地位を守ることになります。
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