第11話

=There Is A Small Hotel スタン・ゲッツ=

■There’s A Small Hotel、スタン・ゲッツ

前回のオスカー・ピーターソン同様、スタン・ゲッツは最もポピュラリティの高い
ジャズ・プレイヤーの一人に挙げられるテナー・サックス奏者ですが、
その最大のヒットであった ボサノヴァナンバーのイメージが災いし、
イージーな路線との印象もあり、一部の硬派のジャズファンからは過小評価されているような感もあります。

でも、テクニックはもちろんのこと、そのアドリブ・ソロはまさに“メロディ・メイカー”というにふさわしく、
ただの早吹きではなく、多用なリズムを駆使して有機的なメロディを紡ぎだし、
美しい音色と的確なアーティキュレーションイントネーションで表現する、すばらしい才能の持ち主です。

彼のニックネームは“The Sound”。これは単にサックスの音色だけでなく、
ハーモニーに対する彼の音選びのセンスへの称賛の声でもあると思います。

このスタン・ゲッツという人、ただ聴くだけのジャズファンになら無理にお勧めすることもないのですが、
これからサックスやアドリブを勉強しようという人にとっては、ちょっと避けて通るわけにはいかない
お手本だろうと思うのですが、いかがでしょうか?

スタン・ゲッツの経歴をちょっと勝手に分析、解説しますと、
第一期

43年、16歳の若さでプロデビュー、スウィング・ジャズの
ジャック・ティーガーデンを皮切りに、数々の有名ビッグバンドを渡り歩き、
47年にウディ・ハーマン・オーケストラのSecond herdに加入。
バラード曲のEarly Autumnのロマンティックなソロで一躍スターに。
(Early Autumn、ベスト盤なのでオリジナル・ヴァージョンかどうかわかりません。)



また、その4人のサックス・セクションにスポットを当て、
ソリと4人それぞれが交互に繰り広げるソロで、Four Brothersも大ヒット。
この辺の詳しい解説はウディ・ハーマンの項をご覧ください。
(Four Brothers、1947)
その後49~50年に独立し、コンボ形式で51年までプレスティッジルースト
集中的にレコーディング、一時代を築きます。
この時期の彼の演奏は大変すばらしいのですが、時代も時代だけに、
そんなに超絶技巧でもなく聴きやすくて、一流プロの演奏を模倣の対象とするには
かなり現実的な選択だと思います。

さてそのソロのスタイルですが、
スタン・ゲッツといえばクール・ジャズの代表ということになっています。
しかし、レスター・ヤングを師と仰ぎ、円熟期以降のレスターと、
その直系の後継者であるスタンは非常によく似ているにもかかわらず、
誰もレスター・ヤングのことを「クール・ジャズ」とは言いません、変ですよね。

ちょっと別の話ですが、やはりレスター・ヤングを徹底的に研究してビバップ
立役者となったチャーリー・パーカーについて訊かれたレスターは、
「パーカーのスタイルをビバップというなら俺のスタイルは絶対ビバップではない。」
と言い切ったそうです。
想像するに、「俺はあんなにヒステリックな演奏はしない。もっと歌心のある演奏だ」
とでも言いたかったのでしょうか? 
もちろんパーカーだってすばらしいし、ストリングスと組んだ“With Strings”などでは、
とてもリラックスした良い演奏をしているのですが…。

レスターがまだ健在な時にスタン・ゲッツはスターダムにのし上がったのですが、
彼に対してはレスターがどう思っていたのか、聞いてみたかったですねぇ。
それにしても、白人のポピュラーサックス、フランキー・トランバウアーにあこがれて
サックスを始めたレスター、さらにそれに憧れてサックスを始めたスタン・ゲッツ。
おもしろい因縁です。
やっぱり白人だ黒人だ、ジャズだ、いやイージーリスニングだの、あんまり関係ないんですね。
エリントンの言ったように、「音楽にはよい音楽とそうでない音楽があるだけだ。」なのですね。



ところで話は戻って、 この頃のアルバムの中で特におすすめなのが
プレスティッジの“Quartets”

なかでもThere’s A Small Hotelはテーマのみならずソロも覚えやすく、
みなさんもどこかしらで聴いた記憶があるのではないでしょうか?

バックに控えしトリオは
アル・へイグ (P)
トミー・ポッター (B)
ロイ・へインズ (Dr)
と、なんとチャーリー・パーカーのバンドのリズムセクション!
他にもToo Marvelous For Words、What’s Newなど
わかりやすい名演奏があります。
(Quartets, 1949)




ルースト盤の方は現在、
原盤そのものは販売されていないのですが、
ザ・コンプリート・ルースト・セッションVol.1とVol.2
という形でリリースされています。

こちらにも耳覚えの良さそうな曲がたくさんあり、
特におすすめはFools Rush In。
もし、それでも難しそうなら、
ぜひ第一期のフルバンド時代のEarly Autumn、Four Brothersの
テーマだけでも演奏してみましょう。
ウディ・ハーマンのFirst Herd時代のWoodchopper’s Ball、
Blues On Paradeのテーマなら、さらに簡単で初心者向きです。

















第二期

一時期の北欧への移住をはさんで、61年に帰国。
62年に友人のギタリスト、チャーリー・バードの強い勧めで、
ボサノヴァをアメリカにおいて最初に録音、
世界的ヒットを飛ばす。
これはもう有名で皆さんご存知かと思いますが、
念のため、

なんといっても、
Desafinadoのソロが圧巻でしょうか。









(Jazz Samba, 1962)


(Getz/Gilberto, 1963)




第三期

60年代末に、とうとうボサノヴァと決別し、
本来のジャズに戻りモダン・スタイルの模索を始めます。
チック・コリアなどとも共演しますがなぜか長続きはせず、
その後さまざまな人とのセッション的な演奏を繰り広げ、
晩年にはようやくケニー・バロンジョージ・ムラーズらとの
レギュラー・グループに落ち着き、けれんみのない演奏を続けました。

かつて80年代のソルトレイク・ジャズ・フェスティバルだったか?
のビデオで、自らの過去のヒットナンバーである
ボサノヴァの名曲の数々を、かなりユニークなフェイク
さらっとメドレー演奏していたのがとても印象的だったのですが、
それはレコードになっていないんですよね、残念!

右は同時期、同パーソネルのアルバム。









(Voyage, 1986)
■フルバンドのすすめ

スタン・ゲッツはもちろんのこと、レスター・ヤング、チャーリー・パーカー、
マイルス・デイヴィスなど、50年代までのスター達はほとんど全員がフルバンドで修行し、
そこで花形ソロイストの地位を手に入れ、独立していきました。

それどころか、それ以前のスウィング時代では花形スターになったミュージシャンの目的は、
やがて自らのフルバンドを経営し、そのバンドリーダーに納まることでした。
しかし、これはその後のスウィング・ジャズやダンス・ブームの衰退でかなわぬ夢となり、
さらには広くプロを養成するようなレギュラーのフルバンドがなくなってしまったことも事実ですが、
現在の日本のアマチュアにとってはちょっと様子が違うようです。

スタン・ゲッツが在籍していたウディ・ハーマン・オーケストラに限らず、
他のバンドもダンス・ブームの衰退と共にやがて経営難になり、
テレビや映画などの商業音楽に徹するものと、よりアーティスティックな面を強調し、
コンサート・ツアーに頼るものとに、やがて分化していきます。
70年代になると、サド・ジョーンズ・メル・ルイス、秋吉敏子・オーケストラなど、
よりモダンなフルバンドが現われる一方、優れたソロイストを確保し続けるには
経済的な困難も伴うようになります。
しかし、このようなバンドを支持するアマチュア・ミュージシャンも多数現われ、
アマチュアのフルバンド活動が70年代以降、特に日本で活発になり、
フルバンドは聴くものからやるものに変わりつつあるのが現状です。

そもそも、声楽をきちんと勉強するのにコーラス(合唱)の訓練は欠かせませんが、
それは管楽器についても同様です。
アンサンブルの練習を通して、他人とのピッチやリズムのずれを確認し、
さらには自分の演奏の出来に関して、周りの人の顔色を窺うことも重要な練習のうちです。
(これがけっこう分からない人が多い!)

またフルバンドのアレンジでは、アドリブ・ソロも比較的コンパクトなサイズで、
その前後や途中にもホーンセクションのアレンジが施されているので、
最初からコンボ演奏をするのに比して負担ははるかに軽くて済みます。

リズムセクションの人にとっても、訳も分からず突然コンボ演奏をするよりも、
ホーンアンサンブルとの掛け合いや、アレンジされたリズムパターンの練習で、
伴奏とは何かを会得し易くなるでしょう。

ここ十数年、アマチュアのフルバンド活動はますます盛んになり、
おそらく東京近辺だけでも百を超えるバンドがあると思われます。
演歌のバック専門のようなバンドから、かなりモダンなアドリブ志向の強いバンドまで
種々様々なバンドがありますから、
ご自分の力量、志向性に合ったバンドを見付け、ぜひ参加してみてはいかがでしょう?

次回へ続く


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