第2話

=ジャズ・プレイヤーへの道=

さて、ジャズの演奏に挑戦しようと決めたら、
まず楽器を決め入手する、さらにはその練習、読譜、音楽理論の勉強と
やるべき事はたくさんありますが、
何よりも大切なのは自分なりの「これが一番!」というお気に入りのアルバムを
見つけることです。

■ジャズ・プレイヤーは手品師?
といっても、別にジャズ屋が客をあっと驚かせるマジックのような演奏をする
という意味ではありません。
プレイヤーをめざしてジャズや楽器の勉強をしている人と、
そのお手本となるプロのプレイヤーとの関係が
手品師と観客の関係に似ているというお話です。

もうだいぶ昔の話になりますが、プロの先輩、先生方とお付き合いするようになると、
参考にしているレコードやその評価が、世間一般のレコード評とけっこう違うことに
戸惑ったことを覚えています。
逆に、時が経ちそれが当たり前になってからは、いわゆるコレクター的なジャズ・ファンと
またずいぶん話が食い違ったりもしました。
ジャズを演奏するわけではない純粋リスナーとでもいうべきジャズ・ファンと、
一度でもプレイをする側に立った人ではおのずとジャズに対する姿勢、聴き方が
違うのですね。

最近の手品はネタバラシを面白おかしく見せるものも珍しくなくなりましたが、
手品を見て本当に帽子の中に鳩が突然出現したり、トランプが消えたと信じるのは
ほんの小さな子供たちだけで、小学生にもなればもう手品には「タネ」があり、
トリックを使っているということを理解しています。
大人はその手品師がどんなトリックを使っているか見破ってやろうと挑み、
見破られまいとする手品師の技とのせめぎあいを堪能する。
程度の差こそあれ客の立場でありながら、いわばライバルである「同業者」の視点で
「芸」を享受しているのです。
“プレイヤー”ジャズ・ファンもこの「タネ」の見破りゲームを楽しみ、
あわよくばプロ・ミュージシャンの芸と技をまるごと盗んでやろうと、
虎視眈々と演奏を聴くことになります。

ところが敵もさるもの、仮にもプロが技も知恵も総力を注ぎ込んだ演奏、
そんなにやすやすと素人さんが理解し、模倣できるわけもない。
ここで聴き手としては、そんなことはプロである演奏者にお任せで演奏を聴き、
いい気分にさせていただくのみにするか、それともステージの袖からそっと盗み見し、
「いつかはプロフェッショナルな演奏ができるようになるぞ!」
と決意するかの分かれ目となります。

それがどちらに転ぶかは、結局は能力よりも
ジャズ、楽器、演奏がどのくらい好きかという気持ちの問題だと思いますが、
それでもなるべく聴き取りやすい、わかりやすい演奏で大好きになれるものを選び、
それを何回も繰り返し聴けば少しずついろいろな事がわかるようになります。
早い段階であれもこれもと浮気をしたり、
背伸びをして難度の高い作品を選んでしまわないようにすることが
重要なポイントとなります。
「お気に入りのアルバム」が見つかるということはある種、
恋人とのめぐり逢いのようなものですね。
うまくこれにめぐり逢えた人はその後の人生が豊かなものになります(ホント?)。
ジャズ・プレイヤーへの道にくじけそうになった時も、
こういうアルバムを聴き直すと初心に立ち返り、
またやる気が沸々と湧いてきたりするんですね。

■お気に入りが決まったら・・・
まずはそのアルバムの演奏から、ビート(拍子)を受け取り、
テーマ(主題曲)が何小節であり、今、コーラスのどの部分を演奏しているかを
把握できるようにするだけでも当面は充分でしょう。
そして次のステップとしては、その箇所のコードは何であり、
どんな演奏をしているか聴き取る。
さらにはそういうディテールだけではなく、
自分の楽器以外のプレイヤーが何をやっているか、
ソロイストと伴奏者の関係、曲の演奏の演出、構成はどうなっているのか、
など盗むべき情報はたった一曲の演奏の中にもたくさん隠れています。

もちろん、プロの技にはステージ上ではおくびにも出さない情報、
たとえば楽器そのものに関する情報や演奏技術、
音楽上の知識、決まりごとなどに裏打ちされている部分もたくさんあり、
それらを全て演奏のみから推定するのはまず無理ですので、
他の方法による勉強も必須であることはお忘れなく!

次回は、私の若かりし頃の「お気に入りアルバム」を
いくつかご紹介したいと思います。



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