第10話
=Girl Talk オスカー・ピーターソン=
■Girl Talk、オスカー・ピーターソン
ジャズ・ピアノといえば「とりあえず
オスカー・ピーターソン」、というほど
ピーターソンのポピュラリティは高く、楽しくわかりやすい演奏。「こりゃいいや」とばかりに
譜面集を買ってきて「いざ、やるぞ!」となるとその難しさにあえなく撃沈、
というのが最もありがちなパターンですが・・・。
50〜60年代にかけて、圧倒的な存在感を示した彼ですが、その後のよりモダン派の、
ビル・エヴァンス、
ハービー・ハンコック、
マッコイ・タイナーなどの登場により、
少し影が薄くなった感があったかもしれません。
それでもやはり、ピーターソンの演奏は楽しいだけでなく、テクニック、音楽性、構成力
どれを取っても超一級品ですね。
ピーターソンは膨大な量の名盤を残していますが、
今回は最も人気の高かった
トリオ
のメンバー構成二組の、
ちょうどメンバーが入れ替わる時期のアルバムをご紹介します。
彼を発見し、アメリカ市場へ引っ張り出したプロデューサー、
ノーマン・グランツとの伝説的な出会い(
オスカー・ピーターソンの項参照)により、
ピーターソンはほとんどその生涯を通じてグランツの息のかかった
レーベル、
マーキュリー(ライムライト)、
ヴァーブ、
パブロなどと契約するのですが、
60年代の一時期、ピアノの録音の出来や、全てを取り仕切ってしまうグランツに
多少の不満を持っていたようです。
ピーターソンはこの時期にドイツのプロデューサー、
ハンス・ゲオルグ・ブルンナーシュヴェーアの
ピアノ録音を大変気に入り、その後、氏の設立する
MPSからアルバムをリリースすることになります。
このアルバムはそのMPSリリースの第2弾となるもので、
原題はExclusively for my friends-Vol.Uとなっており、まだヴァーブに契約の残るピーターソンが
ハンス氏の自宅スタジオに友人を集めて行なったプライベートコンサートの記録からの抜粋となっています。
(これはシリーズもので、Vol.Wまであります。)
《Girl Talk》
オスカー・ピーターソン、1965~67
SideA
1.On A Clear Day
2.I’m In The Mood For Love
SideB
1.Girl Talk
2.I Concentrate On You~Moon River
3.Robbin’s Nest
| (ガール・トーク)
|
特におすすめは
On A Clear DayとRobbin’s Nestの二曲。
On A Clear Dayは比較的新しいミュージカル、
“On A Clear Day, You Can See Forever”(65年)の曲で、
ミディアム・アップ・テンポで演奏。
ピーターソンのソロは熱が入ってくると、だんだん早弾きになり、
オクターブ奏法、
さらには2オクターブ奏法になり、クライマックスになると
フルバンドの
Tutti
のように
ロングトーンを含むリズミックなメロディを
オープン・ヴォイシングで披露し、
それを支えるドラムスの
Fill inとの掛け合い、とピーターソンお約束の構成。
フルバンドでもTuttiのホーンセクションとドラムスの絡みは最大の見せ場なのですが、
ホーンのアンサンブルの方はあらかじめ譜面で指定されています。
トリオの場合はこれもアドリブで演奏してしまうのですが、とはいっても(ここが重要)、
全くの“出たとこ勝負”ではなく、この
シンコペーションの応酬にも
“テンション&リラクセーション”とでもいうべきある種の普遍性があり、
次に相手がどう出るか、ある程度は予測が付くのです。
ドラムスのボビー・ダーハムは時々その予測をはずしてしまうというご愛嬌もありますが。
ぜひ、愛聴盤にして皆さんも「エア・ピーターソン」、「エア・ダーハム」をレコードと一緒にやってください。
とてもよいリズム・トレーニングになるはずです。
これだけの凄いテクニックを持つピーターソンでも、
アート・テイタムを初めて聴いた時、
そのテクニックのあまりの凄さに絶望し、2ヶ月間ピアノに近づけなくなり、
有名ミュージシャンとなった後もテイタムと比較されることすら嫌がり、
友人となったテイタムの眼前では絶対にピアノを弾かなかったというのだから、
人の気持ちというのはよくわからないもんですね。
Robbin’s Nestは少しゆっくりめの演奏で、
イリノイ・ジャケーのオリジナル。
いろいろな人がカバーしましたが最近はあまり聴かれなくなった曲です。
やはり、ピーターソンお得意の
ブロック・コードによるメロディのオクターブ・ダブリングを
ほとんど全編に用いたアドリブ。
フルバンドのサックス・
ソリに似たやり方ですが、私達サックス奏者からすると、
このピアノのブロック・コード、内声(
声部の項参照)があまり動かないのでちょっと物足りなく感じます。
でも、サックスは五人でやるのに対し、すべてを一人でやっているので
そりゃ仕方がないというものでしょう。
On A Clear Day同様、リズムもすばらしいけど、この曲ではアドリブ部分のメロディをよく聴いてください。
わかりやすく、覚えやすいフレーズなので、これも「エア・ピーターソン」で一緒に歌っちゃいましょう。
(後半の
ダブル・タイム、倍テンポになる箇所もこれができればたいしたもんですが、
そこはエスケープしてかまいません。)
実は私、学生時代にこれをさんざんやりました。
歌といえば、ピーターソンも若い時に歌のアルバムも出したことがあるようです。
でも、これも友人となった
ナット・キング・コールと、
お互い相手の存命中は「ナットはピアノを弾かない、ピーターソンは歌わない」と誓い合い、
両者ともこれを守ったそうです。
その誠実さは演奏にも表れ、普段はほとんどトリオで「お山の大将」状態の彼も、
たまにゲストを迎えて伴奏に回った時には、管楽器奏者にとって大変ありがたい伴奏をしてくれます。
私のような管楽器奏者はどうしてもピアニストを「伴奏者」として見てしまうのですが、
ピーターソンはきちんとソロイストを聴き、理解し、合わせ、かといって完全にソロイストに従属するでもなく、
付かず離れずの、すばらしい伴奏者となります。
ビル・エヴァンスもトリオ演奏が多いタイプですが、やはり伴奏に回った時はすばらしい伴奏をします。
その一方、管との共演を好むピアニストでも、・・・いや、この辺でもう止めておきましょう。
マイルス・デイヴィスが
セロニアス・モンクを評した言葉、
「彼はすばらしい奏者だが、僕のバックでは演奏して欲しくない」
は真に実感のこもった言葉だと思います。
ところでこのアルバム、3年間におよぶ録音からのコンピレーション(編集)なので、
パーソネルもちょっと複雑で、SideB 2曲目のソロ演奏を除いても3セットあります。
年代順に
65年、
B-3 Robbin’s Nest
オスカー・ピーターソン(P)
レイ・ブラウン(B)
ルイス・ヘイズ(Dr)
これが第一期黄金トリオ時代のメンバーから
エド・シグペン(Dr)が抜けたもの。
このシグペンが参加している第一期黄金トリオ時代の名盤としては
プリーズ・リクエストが有名でこのアルバムもすばらしいです。
《プリーズ・リクエスト》:原題はWe Get Requests
オスカー・ピーターソン・トリオ、1964
| (プリーズ・リクエスト)
|
66年、
A-2 I’m In The Mood For Love
オスカー・ピーターソン(P)
サム・ジョーンズ(B)
ルイス・ヘイズ(Dr)
さらに、盟友レイ・ブラウンが抜けたもの。
67年、
A-1 On A Clear Day
B-1 Girl Talk
オスカー・ピーターソン(P)
サム・ジョーンズ(B)
ボビー・ダーハム(Dr)
ドラムスがボビー・ダーハムに替わり、第二期黄金時代となります。
このメンバーの他のアルバムは“オスカー・ピーターソンの世界”がおすすめ。
ピーターソンがビル・エヴァンスなどのモダン派に最も影響を受けた時期の
演奏で、それまでのアルバムとのサウンドやアドリブフレーズの変化が
おもしろいです。
《オスカー・ピーターソンの世界》:原題はThe Way I Really Play
オスカー・ピーターソン、1968
| (オスカー・ピーターソンの世界)
|
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