第9回:アルバム「RHYTHMATRIX」リリース記念特別編 この連載のテーマでもある、「ハイブリッド・サウンド」を目指して決定したユニット「RHYTHMATRIX」。 結成から4年。レコーディングを決意してから3年。各地で皆さんに愛されてきた「RHYTHMATRIX」のアルバムが遂に完成した! 分かりやすく「ラテンジャズ」と呼んでいるけれど、RHYTHMATRIXは特定のジャンルの枠にとらわれない音楽を目指している。ぼくは近年ヨーロッパへ公演に行く機会が多く、その中で特にスペインや北アフリカの画期的なハイブリッド音楽を目の当たりにした。アフリカ音楽のめざましい洗練、スペイン語圏の音楽なら何もかも飲み込んでしまうマドリッド音楽シーンなど、グローバル時代に進むべき道を指し示していると感じた。 RHYTHMATRIXもまたそんな音楽を目指している。ジャズ、ブラジル、ラテン、ファンク、ソウル、クラブといった普段親しく触れている音楽を自由に盛り込み、現代日本人的な感覚でハイブリッドしようと試みてきた。コモブチ、安井両氏は、ブラジル人アーティストとの共演も多く、ブラジル音楽を知り尽くし身体に染みこんでいる。この点ではぼくは全く門外漢で、いつも教えられることばかりだ。 一方ぼくの方は、アメリカのジャズが身体に染みこんでいる。でもぼくらは3人共日本人で、その点では明らかな共感がある。ぼくらそれぞれが持つエスニシティと、各自の音楽的感性をぶつけ合い、ミックスしたり時には混乱したりしながらも独自のハイブリッド・サウンドを目指してきた。 ゲストの皆さんの個性にもパワーをもらった。RHYTHMATRIXと一緒に台湾へ行ったSaigenji、レーベルメイトの青木カレン、もう長いおつき合いをさせてもらっている土岐麻子ちゃん、ブラジル人シンガーのWilma、3人の名ギタリスト、二組の名ストリングス、等々。特にフラメンコ・ギターの柴田君はスペインの香りを吹き込み、RHYTHMATRIXがいつもライブでプレイしている曲を、ほとんど別の楽曲に生まれ変わらせてくれた。これこそ、一人では決して生み出せない音楽の醍醐味だ。 さて、このユニットの原型は2004年4月まで遡る。きっかけは、ぼくの大好きなパーカッション奏者、安井源之新がブラジルのサンパウロから帰国したことだった。それ以前から、コモブチキイチロウとはいつも一緒にセッションや仕事をしていた。コモちゃんは得意のスキャットと共に、時に熱く時に寒い(^_^;)ジョークも飛び出す、すごく楽しいステージを展開していた。ここにエンターテイナー安井源之新が帰ってきたのが百年目、一緒にやるっきゃない!と勝手に先走りセッションを企画。 当初は年に2〜3回のセッションだったが、あまりに面白いので独断でユニット化。ついには東名阪にまたがるツアーをスタートした。ライブを重ねる毎にバンドとしての一体感が生まれ、ぼくらならではのサウンドとレパートリーが確立してきた。同時に各地でファンも少しずつ増え、RHYTHMATRIXと共に楽しみ、RHYTHMATRIXと共に生き、RHYTHMATRIXと共に旅してくれた。関東の人は一緒に西へ、関西の人は一緒に東へ、中にはツアー全行程を共にしてくれたり、台湾まで追いかけてくれた人も。 このアルバムが完成できたのは、こんな素晴らしいファンに見守られ、愛され、共に歌い共に踊ってきたおかげだ。そんなファンの皆さんに、心からお礼を言いたい。この作品はライブで一緒に音楽を作ってくれた、皆さんの作品でもあるんだよ! 昨年RHYTHMATRIXは、台湾の「台中ジャズフェスティバル」に招かれた。その時、台湾オーディエンスの熱狂的な反応を受け、ぼくらはとても感動し、確信した。その場にいる全員で、喜びと楽しさと感動を共有する音楽。それこそがぼくらの使命だ! ところで、アルバム「RHYTHMATRIX」の1曲目に収録されているのは「Tombo Misturada」という曲。これはぼくらの定番曲で、ライブでは必ずラストにプレイする。ぼくもコモちゃんも源之新も、この曲は大昔からプレイしている。その後サビ部分のコーラスをフィーチャーした、ベリーニ「Samba de Janeiro」がメガヒットを記録した。一時は同じリフが有名なゲーム音楽に使われ、ゲーセンで盛んに流れまくっていた。さすがにベタになって、一時は敬遠した時期もあった。 実は、かつてライブでコモちゃんとこの曲をプレイしていたとき、英国の歌手キャロル・トンプソンが遊びに来て一緒にコーラスをやってくれた。彼女はその時初めて聴いたそうだが、自分がこの時コーラスで歌ったリフが後にメガヒットしたのでぶったまげた(笑)、というエピソードを持つ。 これを録音するにあたり、「やっぱベタかなあ?」とかなり悩んだ。だけどRHYTHMATRIXを象徴するナンバーだから、入れなきゃサポーターのみんながとうてい納得しないだろうと考え録音を決意。この曲がさらに進化を遂げたのはその後だった。源之新がパーカッション・オーケストラのバツカーダを編曲し、やがてぼくもじっとしてられなくなってタンボリンを叩き出し、遠慮がちにコーラスに参加していたオーディエンスは立ち上がって踊り出し、合図が見えないのでぼくは椅子の上にあがり・・・、といった展開はファンの方がよくご存知の通り。 まだ未体験の方は、是非アルバムだけでなくライブでも体験して欲しい1曲だ。この、ブラジルの香り高き1曲からスタートするアルバム「RHYTHMATRIX」。ほかにもファンキーな曲、ゆったりしたバラード、スパニッシュ・ハイブリッドな曲など、いろいろ収録している。6月には全国のABCマートで流してくれることも決まり、7月にはリリース記念ツアーも予定。是非聴いてみてね! RHYTHMATRIX ファーストアルバム「RHYTHMATRIX」RBCP-2418 −メンバー− クリヤ・マコト:ピアノ/キーボード コモブチキイチロウ:ベース 安井源之新:パーカッション −スペシャルゲスト− Saigenji(vocal) 土岐麻子(cuty voice) 青木カレン(healing voice) ayano(vocal) Wilma de Oliveira(vocal) 天野清継(guitar) 小畑和彦(guitar) 柴田亮太郎(guitar) 安部慶子ストリングス 弦一徹ストリングス、ほか クリヤ・マコト・オフィシャルサイト =http://members.jcom.home.ne.jp/tothemax/ |