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ハイブリッドジャズの歴史 -クリヤ・マコト-


第7回:偏見じゃなく「マーケティング」

ぼくはアメリカに住んでいた頃、「ICHIBAN」というレーベルから一枚アルバムを出した。ここに至るまでにはそれなりの苦労があって、自分一人の力でアメリカでリーダー作をリリースできたのはとてもラッキーだったと思う。とはいえこれは、インディーズレーベルだからこそ実現したことだ。
2作目の「The Baltimore Syndicate」をリリースする際に日本へ戻ってきた最大の理由は、これをアメリカでリリースするのが難しかったせいだった。実はそれには、明確な理由があった。このアルバムは当時(1990年頃)、ジャズシーンで隆盛を誇っていた「新主流派」的なサウンドを含んでいたからだ。ぼくは単純に最先端のバリバリのジャズをやりたかっただけだが、アメリカ・ジャズ業界のマーケティングでは「新主流派」は”黒人”でなければダメだったんだ。つまり”黒人性”をウリにした音楽だったんだ。
ぼくは日本人で、最初から黒人性をウリにした「新主流派」ジャズなんか求められていなかったわけ。
当時アメリカではこの新主流派がブレイクし、その影響は大きな波となって日本にも及んだ。これに影響を受け、日本でも優れた若手ジャズメンが続々登場し、バークリー音楽院などに留学した。ジャズ好きなら誰もが「カッコイイ!」と思う、ハードバップを継承したシリアス&高度な音楽だったからね。 新主流派のスターはウィントン・マルサリスとその一家だった。彼らは黒人以外のアーティストを使わないという意味で、「マルサリス一家は逆差別」という批判を浴びることがあった。でも実は彼らがノーと言ったわけではなく、むしろメーカーやエージェントがノーと言ったんだよね。つまりこれは差別や偏見じゃなくて「マーケティング」の問題だった。マルサリス家のアーティストも実際、ライブでは自由にどんな人種のアーティストともプレイしていた。

  アメリカでのデビューアルバム
      「Always your friend」
それがいざレコーディングとなると、概ね黒人アーティストばかりを起用した。コンテンポラリーなマイルス・バンドにケイ赤城氏が参加したのとは意味が違う。マーケティング次第では「アジア人がホット」ってな事が起きる場合もあるんだけど、「新主流派」は違ったわけ。

   日本でのデビューアルバム
     「The Baltimore Syndicate」
この一種の人種問題にショックを受けて帰国したアーティストは、ぼく一人じゃない。というか皮肉にも、この時代にバークリーへ渡った素晴らしい日本人ジャズメンは、卒業後ほとんど帰国している。新主流派が日本でも話題になっていて、むしろ帰国した方が活躍の場があったからだ。今にして思えばこれこそがマーケティングというものであり、資本主義の当然の論理だった。当時まだ若くで初心な若手アーティストだったぼくらは、うかつにもそのことに気付かず苦しんだ。いや〜、若かったなあ(^_^;)。
メーカーは売上げを伸ばすためにスターを生み出さなければならず、そのためには当然マーケティングが重要になる。近年日本のジャズメーカーが「若い女性」や「天才児」に飛びつくのも同じ理屈だ。マーケティングを中心にしてトレンドが変化していくのも、当然その歴史の一部なんだ。
ヨーロッパやその他の国にも、実は一種の人種問題がある。それは「アメリカのスターならOK、それ以外はNG」という考えだ。これまでにぼくは3回ほどヨーロッパツアーをやったけど、こういった意見に出くわすことは多い。ジャズはアメリカで生まれた音楽なので、実力に関わらずアメリカで活躍している人なら売りやすい、それ以外なら自国のアーティストでないと売りにくいという傾向はどこへ行っても根深いんだ。
自分のグループでモロッコのジャズフェスに出演したときのこと、ぼくはモントリオール・ジャズフェスティバルという巨大フェスのディレクターと親しくなり、会場でもパーティーでも色々と話をした。

   この夏ファーストアルバムをリリースする
                  「Rhythmatrix」
ぼくのプレイを聴いてくれた彼に言われたのが、「北米でアルバムを出しているなら是非出演して欲しいんだけど」というセリフだった。これもまた「マーケティング」の問題だね。
音楽の中身とは無関係に、こうした障壁は決して無くならない。アーティストはそのことをよく理解していなきゃならない。そしてブツクサ文句を言うのは止め、自分に出来ることを精一杯やって突き進むのみだ!

さてそんなわけで、今月からリーダー・ライブに復帰します。4月にはシリアスジャズの「クリヤ・マコト・ピアノ・トリオ」、ニュージャズの「Tokyo Freedom Soul」という二つのユニット、そして5月にはラテンジャズ「Rhythmatrix」のプレ・リリースライブ。台湾でも熱狂的反響を得たこのユニットは、6月にファースト・アルバムのリリースが決定した。一緒に台湾へ行ったSaigenjiをはじめ、土岐麻子ちゃん、青木カレンちゃん等々、豪華ゲストも参加してくれた意欲作。現在寝ずのトラックダウン中です。ご期待ください!(つづく)

<クリヤ・マコト・ライブスケジュール>
●4/8(水) 青山Body & Soul(03-5466-3348)
TOKYO FREEDOM SOUL with MARU:クリヤ・マコト(pf)、鳥越啓介(b)、天倉正敬(ds)、MARU(vo)
●4/19(日) 調布・蛯澤珈琲店(042-488-1335)
クリヤ・マコト・ピアノ・トリオ:クリヤ・マコト(p)、早川哲也(b)、大坂昌彦(dr)
●5/08(金) 目黒ブルースアレイ・ジャパン(03-5496-4381)
Rhythmatrix:クリヤ・マコト(pf)、コモブチキイチロウ(b)、安井源之新(perc)、村上広樹(ds)、太田剣(sax)
●5/22(金) 名古屋スターアイズ(052-763-2636)
Rhythmatrix:クリヤ・マコト(pf)、コモブチキイチロウ(b)、安井源之新(perc)、村上広樹(ds)
●5/23(土) 大阪ミスターケリーズ(06-6342-5821)
Rhythmatrix:クリヤ・マコト(pf)、コモブチキイチロウ(b)、安井源之新(perc)、村上広樹(ds)

※詳しくはクリヤ・マコト・オフィシャルサイトをご覧ください。
http://members.jcom.home.ne.jp/tothemax/

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