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ハイブリッドジャズの歴史 -クリヤ・マコト-


第5回:グローバリゼーションと偏見

今年一番の話題といえば、アメリカで史上初めてアフリカ系の大統領が誕生したこと。
オバマ新大統領はまさに世界中の注目を浴びているが、当事者であるアフロ・アメリカン達の盛り上がりと言ったら、そりゃあもの凄い騒ぎだ。 ぼくの友達のアメリカ黒人達にも、長い選挙戦の当初から熱烈なオバマ・サポーターが大勢いた。ミュージシャンだからみんな「My Space」をやっているが、彼らのサイトを訪れると自分の音楽をさしおいて「オバマ、オバマ」のオンパレード。アメリカの選挙権を持つ人々には、「Changeを実現しよう、オバマに一票を!」と呼びかける。
オバマが勝利したとき、ぼくはCNNに釘付けで彼の演説を全部聞いた。カメラが支持者を一人一人映し出していくのが、すごく印象的だった。その中にはジェシー・ジャクソンとか、黒人指導者たちも大勢いてみんな涙を流していた。ぼくの友人達も含めて、アフロ・アメリカンはみんなまさに感無量だったと思う。
リベラルな白人たちもまた、こんな歴史的偉業を成し遂げてしまえるアメリカという国に新たな期待と誇りを持てたはずだ。なにより「自分たちが変えた」という、直接民主主義ならではの人々の誇りがひしひしと伝わった。
それは就任式も同じで、このフィーバーぶりを見るとまさに「カリスマ」という言葉がピッタリだ。これまでの大統領とは何かが違う、そう期待させてくれる人なんだろうね。

 パリのユネスコホールで各国のアーティスト達と。 故ジョニー・グリフィン(ts)、ジョン・ファディス(tp)、ネイサン・デイヴィス(sax) など黒人アーティストも。
就任式の日インタビューで、「私は61歳だが、つまり61年間この男の出現を待ち続けていたってことだ」と答えた人がいた。その人が紛れもない白人だったのが印象的だった。
全てのジャズメンたちも、公民権運動を闘ってきた人たちも、言葉では語り尽くせぬ思いだろう。仲良しのブレンダ・ヴォーンは黒人社会への貢献を表彰されたこともある優れたボーカリストだが、まさに熱烈なオバマ・サポーターで、今回の就任式に合わせてアメリカへ一時帰国した。ぼくは就任式もCNNで全部見たが、ああきっとこの群衆の中にブレンダがいるに違いないと思いながら見ていた。土産話が楽しみだ。

世界的な注目も高くて、世界中がアメリカに変わって欲しいと思っているのがわかる。
アメリカという一国の大統領就任に、世界中の人々が注目する。これはもちろん大国アメリカの世界的影響力の大きさを示すが、同時に昨今のグローバリゼーションの影響でもある。世界経済が繋がっていて、アメリカで不良債権問題が起こったら世界中がその騒ぎに巻き込まれる。だからアメリカの政策一つで、世界中が影響を受ける。
もはやアメリカの問題を、アメリカ一国の都合だけで決められる時代じゃない。多少とも世界の和を考えながら、環境やエネルギーの事にも配慮しつつ駆け引きをして行かざるを得ない。もちろんアメリカだけじゃなく、みんなが少しでもより良くなっていくよう努めなきゃならない。その象徴が、人種や主義主張の異なる人々を内包したアメリカ社会であるとも言える。

音楽もまた、このグローバリゼーションの影響を受けざるを得ないわけだけど、実を言うと世界のジャズ業界にはある種の「人種偏見めいたもの」がある。
もっとも、ライブなどの音楽の現場では差別的なものは全くない。もちろんジャズの生まれた本国アメリカでも同様だ。プレイヤーとして優れており、ビザさえ持っていれば人種は関係ない。人種差別の苦しみの中から生まれたブルースやジャズだけど、音楽の中には人種差別はないんだ。
ただし、ビジネスとなれば話は少し違ってくる。どの芸術文化も同じだろうが、音楽もまたビジネスと切っても切れない関係にある。
そうは言っても純粋に音楽を勉強している駆け出し、若手のジャズアーティストが、その段階でビジネスまで視野に入れていることは希だ。多くは邪念無く、ただひたすら巧くなること、優れたミュージシャンになることを目指している。また、そうでなければ優れたアーティストになれないのも事実だ。
だがミュージシャンとしてそれなりのレベルに達し、いよいよこれから羽ばたくという段階になると突然、誰もがビジネスの障壁に突き当たることになるんだよね。

 在日アフロアメリカン・アーティストを含むユニットで「東京JAZZ 2004」 に出演したときの楽屋ショット。
  例えば、アメリカで東洋人がジャズのリーダーアルバムを出すのはなかなか難しい。制作が日本の大手メーカーで、プロモのために有名レーベルの名前を冠してリリースするというケースは数多い。だけど日本人が単身アメリカで活動し、自ら直接アメリカのレーベルとビジネスをしてリーダー作を出すのは結構大変だ。
これもまた、前回書いた文化の「ローカリゼーション」と関係がある。文化はコミュニティーと密着したものだから、そのコミュニティーと密接なバックグラウンドを持っていなければ受け入れられないんだ。
例えば、日本人が空手や柔道を教えたり、スシバーのシェフをやるなら何の問題もない。だけどジャズやソウルをやるなら話は別ということだ。
さっき書いたとおり、ミュージシャンレベルの付き合いで一緒に音楽をやる分には問題なく、実力さえあればそれでいい。東洋人が参加するバンドはたくさんあるし、有名アーティストにサイドメンとして起用されることもある。アメリカでそういう生活を続けていると、自分もアメリカ人に受け入れられ、他のアーティストたちと同様に評価され、歴史を築くことができるんだとつい勘違いをしてしまう。
ところが自分の作品をリリースし、自分のバンドで公演をやろうとすれば途端に話が違ってくるんだ。その理由は「一体誰が聴くのか?」っていうことだ。これを無視して音楽をやることは出来ない。これについて具体的な話は、次回にしたいと思う。
ぼくが帰国したのは、自分のやりたいこと、やりたい音楽をやるためだった。ただそのために帰国したのが果たして良かったのか、それともアメリカに居続けた方が良かったのか?それは未だに明確な答えの出ない微妙な問題だ。 どちらにしても、音楽でどうにか食べていくくらいは出来たと思う。ただアメリカと日本とで、音楽を巡る環境はあまりにも違っていた。環境が違えば当然、そこに存在する音楽も全然違う。こういう現実に自分を合わせていくのって、意外に難しいんだよね。

 My Sista「ブレンダ・ヴォーン」。
  ところで、ぼくは現在劇場用アニメ音楽を制作している。自分の音楽を作るのとは別に、いろんなシチュエーションに応じて求められている音楽を作るのもまた楽しい。中でも必要とされている音楽の中に、自分ならではの個性や味を出すという部分はとてもチャレンジングだし勉強になる。今度の作品は、ファミレスのBGMでぼくのジャズCDが流れたりもする予定だ。   今はこの締め切りに追われまくっているが、それが完成したら2月、TOKUと一緒にツアーに出ます。みなさん、予定が合ったら是非見に来てね!(つづく)


<クリヤ・マコト・ライブスケジュール>
2/07(土)北青山「Prassa 11」(03-3405-8015):安井源之新セッション
2/17(火)豊岡市「ブルーリッジホテル」(0796-45-1200):TOKUツアー
2/18(水)神戸「Live House WINTER LAND」(078-252-8030):TOKUツアー
2/19(木)東広島「Black and Tan」(0823-82-9168):TOKUツアー
2/20(金)下関「BILLY」(083-263-6555):TOKUバースデーライブ
2/21(土)宮崎「三股町立文化会館」(0986-51-3462):TOKU & 西藤大信ライブ

詳しくはこちらを→http://members.jcom.home.ne.jp/tothemax/information/info_other.html

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