第40回:20年前のジャズに思う4
こうしてジャズが変遷していくのは当然のことで、その先に新しい音楽の誕生がやってくるんだろう。だけど、ジャズが好きでジャズを志す人たちには、是非そのルーツと本質を忘れずに追求して欲しいと一方で思っている。本質というものは、たとえ外観が変わっても引き継がれていくんだ。例えばアメリカでは、ジャズメンはヒップホップをクールだと思い、ヒップホップの大好きな若者もまたジャズをクールだと思う。スタイルは違っても根っこは同じだからだ。
そしてこの根っこさえちゃんと理解していれば、音楽に誤解は生まれない。日本ではファンクやヒップホップのリズムはゴキゲンなのに、スウィングはからきしダメというアーティストや、その逆のアーティストがいっぱいいるのだけど、アメリカへ行くとそういう人はあまりいない。16ビートが良い人はスウィングも良い。これは音楽を根っこで聴いているからだ。同じルーツを持つ音楽を同じ種類の音楽として、より深い部分で吸収しているからなんだよね。以前も書いたけど、グローヴァー・ワシントンJr.はスウィングジャズを演っても一流だったし、パリで共演したビリー・コブハムはコンテンポラリー・アーティストながら、そのスウィングビートは唸るほど素晴らしかった。
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パリで一緒にスウィングジャズをプレイしたビリー・コブハム
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彼らにとっては、同じ黒人音楽の間に垣根がないんだ。ブルースもジャズも、R&Bもヒップホップも、同じ社会的歪みから生まれ、アフロ・アメリカンの尊厳を主張してきた音楽に違いはない。いくら白人ジャズやグルーヴジャズが注目されても、やっぱりスウィング(グルーヴ)しなけりゃジャズじゃない。「スウィング」と「ハーモニーのクラッシュ」がジャズの本質で、なぜならそれは、ジャズが誕生した理由がそこにあるからだ。
つまり、社会的弱者であることを強いられた人々と、その人たちを社会に取り込んだ強者の音楽の融合だ。古くはアフリカ音楽と西洋ポピュラー音楽との融合、後にはプエルトリコ、ジャマイカ、ハイチなどから来た新移民と旧移民の音楽の融合。
要するに、ジャズはどこまでいってもアメリカ音楽だと言える。ジャズだけじゃなくR&Bも、ヒップホップも、サルサやクラブ音楽も、人種のるつぼである多民族国家アメリカに特有の音楽だ。人種のるつぼであり、異なる文化が衝突するメルティングポットだからこそ、アメリカでブルース・ジャズを始めとする新しいポピュラー音楽が次々に花開いたんだ。
80年代を代表するディーバ、ホイットニー・ヒューストン
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ところで、80年代のアフロ・アメリカ文化を象徴するディーバ、ホイットニー・ヒューストンが亡くなったね。先に亡くなったマイケル・ジャクソンもまた、80年代を象徴するアーティストだった。その二人が共に苦痛を取り除くための薬物過剰摂取、という大変不幸な最後を迎えたことは、音楽も含む社会の変化を反映しているように思えて何とも痛ましい。
新主流派がジャズの黒人性を主張して最後の全盛期を彩った頃、世界の趨勢はむしろ同化へ向かっていた。マーケットは巨大になり、黒人は「白人にも聴いてもらえる音楽」を目指した結果、マイケルやホイットニーのような世界的大スターが誕生したんだ。 |
しかしいま、時代は逆の方向へ向かっている。内向きになり、ローカライズして民族や人種、コミュニティが小さく分断されている。マーケットも分断されて、それぞれが「とにかく自分のコミュニティで受け入れられなきゃ」という風潮だから、世界的大スターは生まれにくくなっている。日本だって、洋楽より身近な音楽を聴く人が圧倒的に多いでしょ?
そんな事も忍びつつ、ホイットニー・ヒューストンのトリビュートライブをやることになった。3月13日@モーションブルーヨコハマにて。ぼくは昔、ホイットニー・バンドの音楽監督であるリッキー・マイナーとセッションしたことがあるけど、彼もさぞかし辛いだろうな。
ボーカルには、ぼくが「日本で最もソウルフル」だと思っているMARUを迎え、ホイットニー・ナンバーや彼女に捧げるゴスペルを歌ってもらう。さらにサックスに、本家カーク・ウェイラムに勝るとも劣らぬプレイヤー、アンディー・ウルフを迎える。
リズムセクションはベース=コモブチキイチロウ、ドラム=則竹裕之という、これまた随一のコンテンポラリー・アーティスト。首都圏の皆さん、火曜日だけどこの最高のメンバーによるホイットニー・トリビュートを、是非是非聴きに来てください。このトリオでは、関西へもツアーに行く予定。京都、広島ではボーカルのたなかりか、真庭ではバイオリンのNAOTOをゲストに迎えます。京都、広島、岡山、神戸周辺の皆さん、この最高にグルーヴィーなライブを是非お見逃し無く!
<クリヤ・マコト・ライブ情報>
●クリヤ・マコト・グルーヴィートリオ・ツアー
メンバー:クリヤ・マコト(pf)、コモブチキイチロウ(b)、
則竹裕之 (ds)
3月13日(火) 横浜Motion Blue YOKOHAMA(045-226-1919)
=Tribute to Whitney Houston feat. MARU from Fire
Lily(vo) and Andy Wulf(sax)
3月16日(金) 京都RAG(075-241-0446)
※ゲスト=たなかりか(vo)
3月17日(土) 岡山県勝山文化センター(0867-44-2011)
※ゲスト=NAOTO(vn)
3月18日(日) 広島Speak Low(082-545-3960)
※ゲスト=たなかりか(vo)
3月19日(月) 神戸CREOLE(078-251-4332)
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※詳しくはクリヤ・マコト・オフィシャルサイトをご覧ください
クリヤ・マコト・オフィシャルサイト
http://members.jcom.home.ne.jp/tothemax/live/schedule.html |