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ハイブリッドジャズの歴史 -クリヤ・マコト-


第36回:巨匠ミシェル・ルグラン

  時々、ぼくの音楽は「ミシェル・ルグランを思わせる」と言ってくれる人がいる。「ディズニーランドみたいだ」と言ってくれる人もいるんだけど(笑)、ぼくはどちらも大好きなのでそんな風に言われるととても嬉しい。
  最新アルバム「Art for Life」でも、ルグランに捧げて彼の「Whatch What Happen」という曲を、短いソロピアノで収録した。なんと言っても彼はぼくが最も尊敬する作曲家の一人なんだけど、パリのジャズクラブでライブをやっていた時、彼の息子さんベンジャミン・ルグランが遊びに来てくれたのは以前も書いたとおり。その時ベンジャミンと一緒にセッションしたのがこの曲だった。
  そして今年そのお父さん、憧れのミシェル・ルグランと初めてお会いすることができた。
 彼がブルーノートと東京ジャズの公演で来日するらしいことは知っていたんだけど、そのミシェル・ルグラン・トリオのメンバーにたまたま、パリの友人が参加していたんだ。
  ピエール・ブザゲー。フランスを代表するメインストリーム系ジャズベーシストだ。彼は3人いたというレイ・ブラウンの愛弟子の一人。しかも15歳でプロデビューし天才少年と呼ばれた、まさにレイ・ブラウンの秘蔵っ子だった。彼はラベルが愛用していた楽器を使用していて、その音色がまた素晴らしい。

巨匠ミシェル・ルグラン・トリオとの記念ショット

  ぼくはモロッコで彼と共演し、それ以降来日する度に会って東京の街を案内している。これまで様々なユニットで来日しているけれど、今回も含めて毎回ピアノトリオ。それだけヨーロッパでは信頼されているベーシストなんだけど、そんな彼でも大巨匠ルグランのバンドはちょっと緊張するという。

 

  まもなく80歳になるというルグラン。そのステージはとても素晴らしかった。作曲家のイメージが強いルグランだけど、80歳を間近にしてまだまだ立派なプレイ。もちろん「若さとパワー」はないけれど(笑)、フランス人らしいユーモアと余裕に溢れた知的で豪壮なプレイ。円熟しきった独自のフレージングを、饒舌にまくし立てるといった印象だ。つま弾きに乗せた「ヘタウマ」調のボーカル、ピアノとユニゾンのスキャットも見事。巧いプレイと言うよりも、個性的でドラマティックなプレイだった。

  ベースのピエールは、「ルグランはジャズじゃない」と主張していた。これは、普通のあたりまえのジャズじゃない、型にはまったお定まりのジャズじゃないという意味。いかにもジャズっぽいバッキングをすると、巨匠はつまらないと言ってすぐ怒るそうだ(笑)。常に型にはまらず、意外性のある展開へと行きたがる、型どおりのジャズへ収まろうとしたらダメ出しをするのがルグランだとのこと。だからこそ真にオリジナルな音楽を生み出せるんだよね。


ベーシスト、ピエール・ブザゲーと新橋の沖縄料理店にて

ピエール自身はバリバリのメインストリーマーだけど、「あたりまえじゃないからルグランのバンドは楽しい!」そうだ。

  

  ところで、この日ぼくは午後イチからライブ三昧の一日だった。東京ジャズからブルーノート東京をハシゴして、プレイしたんじゃなくて聴きまくった日。その中で3組の超ベテランバンドを見た。まず、米国メインストリーム・ジャズのオリジネーターの一人であるケニー・バロンのトリオ。68歳。ぼくが最も影響を受けたジャズ・ピアニストの一人だ。



それから、ぼくのラテンジャズ・ユニット「RHYTHMATRIX」にインスピレーションを与えてくれた、セルジオ・メンデスのライブ。70歳。めくるめく往年の名曲ヒットパレードで、ジョビムやバーデン・パウエルの名作を新旧のセルメンアレンジで披露してくれた。そして79歳のルグランだ。
   彼らはメインストリーム、ブラジル、フレンチ・ジャズと、それぞれ国籍もジャンルも違うのだけど、共通する部分を持っている。それはどれも独創的で強烈な印象を持つ、粋でカッコイイ大人の音楽だということ。それは必ずしも技術重視の優等生の音楽じゃなくて、レイドバックした、ちょっと不良の洒落た音楽。実はこのことこそが、ジャズの真髄なんだ。近年、特に日本では若さと可能性への期待感ばかりに注目が集まりがちだけど、本当のジャズの魅力は青臭さとは無縁の、力の抜けた大人のサウンド。酸いも甘いも噛み分けた深い味わい。改めてそのことが身にしみた一日だった。皆さんも、ベテランたちが元気なうちに是非ライブを見ておいてください。

  ちなみに、ぼくのツアーも今月からスタートです。スケジュールは下記の通り。ピアノ・トリオはディープなメインストリーム・ジャズ・ユニットで、RHYTHMATRIXは豪快なラテンジャズ・ユニットです。各地の皆さん、是非是非遊びに来てね!


<クリヤ・マコト・ライブスケジュール>
●クリヤ・マコト・ピアノ・トリオ 秋のツアー
  10月20日(木) 六本木アルフィー(03-3479-2037)
  出演:クリヤ・マコト(pf)、早川哲也(b)、大坂昌彦(ds)
●RHYTHMATRIX with special guests! ツアー
  10月16日(日) 銀座ヤマハホール(03-6234-0517)                               ※14:00開演
     ゲスト=SHIHO(vo: from Fried Pride)、村上広樹(ds)
  10月29日(土) 新潟 器(025-229-5239)
     スペシャルゲスト=吉川ナオミ(vo)、村上広樹(ds)
  10月30日(日) 長岡クックテールくぼた(025-836-3055)
     スペシャルゲスト=吉川ナオミ(vo)、村上広樹(ds)
  11月03日(木) 二川よし味(0532-65-5765)
  11月05日(土) 名古屋スターアイズ(052-763-2636)
     スペシャルゲスト=上田裕香(vo)
  11月06日(日) 大阪ミスターケリーズ(06-6342-5821)
     スペシャルゲスト=上田裕香(vo)
  出演:クリヤ・マコト(pf)、安井源之新(perc)、コモブチキイチロウ(b)
●名古屋スペシャルセッション
  11/4(金) 名古屋スターアイズ(052-763-2636)
  出演:クリヤ・マコト(pf)、安井源之新(perc)、松浦直樹(b)、

    倉田大輔(ds)、西崎佳代子(tp)、プリスカ・モロツィ(vo)
●クリヤ・マコト×上田裕香DUO
 11/7(月) 二川よし味(0532-65-5765)
 出演:クリヤ・マコト(pf)、上田裕香(vo)


※詳しくはクリヤ・マコト・オフィシャルサイトをご覧ください
クリヤ・マコト・オフィシャルサイト
http://members.jcom.home.ne.jp/tothemax/live/schedule.html

 

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