第24回:パリはアーティストの天国 ブリュッセルの次はパリへ移動。ここまでカイロ、ブダペスト、ブリュッセルと初めて訪れる都市が続いたんだけど、どの街も歴史ある素晴らしい都市ですっかり気に入ってしまった。そしてパリは、もう何度も来ているお気に入りの都市だ。ほどよく都会でほどよく田舎で、歴史的でアーティスティックな街。ロンドンが東京だとしたら、パリは京都のような感じだ。 今回のパリは、ジャズクラブ「Chez Papa」でのセッションとAligre FMへの出演が目的。パリでは友人も増えたから、彼らと再会したいというのもある。セッションのメンバーは日系フランス人ドラマーのカン・ヒデヒコ、ベテラン・ベーシストのクロード・モートンとのトリオ。ブリュッセルから列車でパリへ到着し、まもなく彼らとのリハーサル会場へと出かけた。ここがメチャおもしろかったのでご紹介したい。
写真は移民地区のゲットーではない。これは、新開発地区の中に突如現れる古いビル。なんでもビルまるまる一つが、アーティストのコミュニティになっているそうだ。元々は戦前に、冷蔵倉庫として使われていた建物だったため、非常に壁が厚いのだそうだ。この建物内に、「ジャズ・ミュージシャンズ・ユニオン」がスタジオを持っており、会員がリーズナブルに借りられるようになっている。パリのありとあらゆるジャズメンがここを利用していて、この日も入れ替わりにパリで有名なベテラン・ピアニストが訪れていた。
しかし、ここにあるのはスタジオだけじゃない。スタジオへ行く途中の長い廊下には、左右に様々な工房、アトリエ、作業場がずらりと並び、摩訶不思議なアートがそこら中に並んでいるんだ。まさに「パリ」ならではの感じ。何がパリっぽいかって、このビルは長い間放置されており、そこへいつの間にか多くのアーティストたちが集まってきてアトリエやスタジオの集合体になったのだという。かつてダリやピカソ、モディリアニといった芸術家が集まって、自然にコミュニティを形成していったのと似たような事が今も行われているんだよね。
この話を聞いてぼくが感銘を受けたのは、東京なら絶対こうは行かないだろうと思ったからに他ならない。 フランスは本当にアーティストを大切にする国なんだよね。元々社会福祉の発達した国だけれど、フランスではアーティストは特別に優遇されている。 今でも市民のためになる仕事を年間に一定量行ったアーティストは、仕事がない期間でも収入の保証が受けられる。外国人のアーティストも例外じゃない。このため歴史的にパリへは、世界中から才能あるアーティストたちがどんどん集まってきたんだ。ピカソやダリ、ミロ、藤田嗣治など多くの外国人アーティストが活躍し、フランスは彼らを誇りとしてきた。ちょっと話がそれるけど、最近じゃ北野武監督がフランスの勲章を授与されたのは記憶に新しい。
ぼくが2004年に共演させてもらった故ジョニー・グリフィンは、その時代からパリに永住しパリで永眠した。デクスター・ゴードン主演でハービー・ハンコックが音楽を担当した映画「Round Midnight」は、そんなパリの雰囲気を伝えるとても魅力的な映画だ。アメリカにしても、最近の韓国にしても、文化もまた国家の支援やてこ入れがあってこそ発達する側面があるようだ。これは政策というよりもむしろ理念の問題だと思うけれどね。
さて、動画でもご紹介した通りいよいよ「クリヤ・マコト・ピアノ・トリオ」のツアーがスタートする。本物のジャズに対する理解はまだまだ物足りない日本で、特別な支援を受けることもなく(笑)、名職人として、かつ妥協のないアーティストとして音楽を追究してきたぼくら3人の、男気溢れるメインストリーム・ジャズを是非聴きに来てください!
※出演=クリヤ・マコト(p)、早川哲也(b)、大坂昌彦(ds)
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