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ハイブリッドジャズの歴史 -クリヤ・マコト-


第22回:ブダペストのクリヤ・マコト−2

  始めて訪れたブダペストの街は、噂に違わぬ美しさだった。ドナウ川を挟んで、王宮のある旧市街がブダ、ダウンタウンの繁華街が広がるペスト。カフェやレストランはどれも洒落ていて、味も平均的に美味しい。店員も極めて感じがいいし、どんなリクエストにも快く応えてくれる。人々は律儀で親切。なんとなく日本人に通じるところがあり、日本人にとってはとても居心地が良い。ひょっとしたら、日本より居心地が良いかも?!
 そんなブダペストのジャズシーンで中心的存在の一人であるというピアニスト、ピーター・サリクと一緒にデュオ・ライブをやった。会場は、ハンガリー・ジャズシーンを代表する2軒のジャズクラブのうちの1軒だという「TAKE 5」。ピーターはリハーサルにオンタイムで現れ、ぼくは遅刻して彼を待たせてしまった。打合せを始めるや、彼はセットリスト用のひな形を持ってきてくれた。すごい律儀だ。二人でオリジナル曲やスタンダードを持ち寄り、そのひな形を埋めていった。
ドナウのほとりからブダの丘・王宮を臨む

  彼は協調性に富んでいて、打合せも実にスムーズに進んだ。新鮮な気持ちで本番に臨みたいという理由から、リハーサルは軽くメロディーと構成をさらうだけの簡単なものになった。なのであっという間に終了し、一度解散してから本番直前に店で落ち合うことになった。

  

  オーディエンスは皆、思い思いに酒を飲んでリラックスしている。ピーターはお馴染みのアーティストだけど、クリヤ・マコトなんて誰も知らないし、熱心で好奇心の強い地元ジャズファンが、少しの期待を胸に集まってきた感じだ。そんなリラックスムードの中、本番がスタート。

  ピーターはテクニックも素晴らしいけれどすごくノリが良くて、もちろん耳も直感も素晴らしくて、期待した以上に微妙かつ絶妙なインプロヴィゼーションが展開。ちょっとしたグルーヴの変化にも即座に、完璧に反応して応えてくれる。ぼくらの意図は互いにテレパシーのように通じるらしく、こっちに行きたいな〜と思った方向へピタリとくっついて、自由自在に音楽世界を駆け巡った。”ここでクライマックスに達したいよね”、”せっかくだからもっと行っちゃいたいよね”、という具合に、音楽的な対話だけで快楽を完璧に共有しちゃっている「ヤバイ」ライブだった。

  そして、オーディエンスの反応も強烈だった。ひょっとしてステージの上だけで楽しみ過ぎかな?と思っていたら、客席からも割れるような拍手と大歓声。  


リスト音楽院でのマスタークラス・セミナー
そんな反応と賛同に後押しされて、いたずら好きなぼくらの大冒険は益々エスカレートにエスカレートを重ね、際限ない悪ノリの応酬に。最後にはピーターが譜面代を叩いてリズムを出し、ぼくがそれに応えて弦をはじくギター奏法を繰り広げ、客席からはヤンヤの大声援。互いにピアノ・サウンドにたどり着いたときには気分は最高潮に達していて、二人してどこまでも盛り上がっていった。とても初共演とは思えない、奇跡のようなステージだった。そして興奮に満ちた雰囲気の中、アンコールが3回来た!

  店のスタッフいわく、長年ブダペスト・ジャズシーンを見てきたけど、オーディエンスがこんな反応をすることは滅多に無いそうだ。ブダペストのオーディエンスは、いつもはわりとクールなんだとか。そんな話を聞いちゃうと、ぼくとピーターの出会いはまさに奇跡で、運命だったのかも?と思ってしまう。ぼくらを「兄弟のようだ」と評価したコーディネイター、ベンスの面目躍如だ。
  手前味噌ながら、ぼくとピーターはチームとしても結構個性的なんじゃないかと思う。ハービー×チックとか、これまでに偉大なピアニストによる様々なデュオが行われてきたけれど、わりと現代音楽的なインプロヴィゼーションになることが多いよね。ぼくとピーターは「コンテンポラリー、かつファンキーでソウルフル」。こういうデュオは意外に少ないんじゃないかな。今後とも何とか、彼と共演する機会を作っていきたい。

 

  それにしても、音楽はなんて素晴らしいんだろう。つい最近まで互いの存在も知らず、遠く離れた外国に生まれ育った二人のアーティストが、初対面でこんなに心を通じ合えるなんてスゴイと思わない?

こんな奇跡を可能にしたのは、まさにぼくらの共通言語である”ジャズ”の力だ。ぼくらは全く違う国籍、社会背景、生い立ち、歴史を持ちながら、同じジャズを志し、ジャズの気持ちよさ・美しさ・快楽への深い理解を共有していたからこそ、こんな事が可能になったんだよね。
  そして、この喜びを共有したのはぼくら二人だけじゃなく、クラブに集まってくれたオーディエンスみんなが同じ気持ちだった。ここにこそ、ぼくらがジャズをやってきた意味があるんだと思う。

「TAKE 5」にてピーターとライブの打合せ
 

  同じジャズメンだからってもちろん、誰もがこんな風に即座に通じ合えるわけじゃない。ぼくの人生の中でも、今回のような経験はそう多いわけじゃない。でも確かにそんな運命的出会いは時々あって、7月に初の国内ツアーをやる「TOKYO FREEDOM SOUL」や、9〜10月にツアーを行う「クリヤ・マコト・ピアノ・トリオ」のメンバーも、ステージでまさに同じ快楽を共有できる貴重な仲間だ。7月のスケジュールは下記の通り。みなさん、是非遊びに来てね!

<クリヤ・マコト:7月のライブスケジュール>
●TOKYO FREEDOM SOUL〜国内初ツアー!
  7/02(金) 京都MOJO WEST(075-706-8869)
  7/03(土) 名古屋STAR EYES(052-763-2636)
  7/19(祝) 水戸GIRL TALK(029-225-0050)
  8/02(月) 青山BODY&SOUL(03-5466-3348)
出演:クリヤ・マコト(pf)、鳥越啓介(b)、天倉正敬(ds)

※詳しくは、クリヤ・マコト・オフィシャルサイトをご覧ください。
http://members.jcom.home.ne.jp/tothemax/live/schedule.html


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