第19回:戦後日本のショービジネスとジャズ
ハリウッドへの影響まで行ったついでに、ちょっと脱線するけれど戦後日本のショービジネスに対する、アメリカ・ジャズの影響について触れてみたい。本場アメリカのジャズシーンでは、戦後はもう完全にモダンジャズの時代に入っていた。だけどビッグバンドの伝統や、ビッグバンド・ジャズに乗ってボールルームでダンスを踊る習慣はその後も長く残った。そんな華やかな社交場の光景が、多分日本ではすご〜くアメリカっぽく、羨まし〜く写ったんだろうね。
進駐軍と共に、アメリカ音楽としてビッグバンド・ジャズが日本へ入ってきた。ビッグバンドは好景気の音楽で、戦後復興期の日本が憧れる要素を持っていた。日本の高度成長期に最も勢いのあった文化人は、なんとジャズ評論家だった!その代表者である「大橋巨泉」氏を知っている人も、最近は少なくなったんだろうなあ・・・。
ショービジネスのスターになったのはジャズメンだったから、テレビが本格的に普及してからもそのまま彼らがスターになった。アメリカ式バラエティー・ショーの影響を強く受けて、ジャズメン達はコントまでやったんだよね。当時のアメリカでも、ちょうどエンタテインメント性の高いコミック・ブルースバンドのようなものが流行っていたので、それに倣って日本のジャズもコミックバンド化していった。
その代表選手がクレイジー・キャッツやドリフターズだ。どちらも元々はジャズ・バンド。彼らは楽器も弾けて歌も歌えて、芝居も出来る総合エンターテイナーだった。彼らがどれほどの大スターだったか最近の若者たちにはちょっと想像できないだろうけど、まさにSMAPばりだったんだよ。
そして、女性シンガーはみなジャズ歌手を目指していた。大昔の音楽専門誌「ミュージックライフ」を読むと、当時デビューしたばかりの新人歌手いしだあゆみ(今では超ベテラン女優)が、「エラ・フィッツジェラルドのような歌手になりたいです」なんてインタビューに答えているからぶっ飛ぶ。ものすごい時代だ。そもそも「ミュージックライフ」という本自体、ぼくが高校生くらいの頃には既に「ロック雑誌」だったんだから(笑)。
要するにかつては、スゴイ歌手=ジャズ・シンガーだった。実際、優れた歌手がみんなジャズを歌っていた。
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淡谷のり子、雪村いずみ、江利チエミ、ペギー葉山、フランキー堺、朝丘雪路、森光子もジャズを歌っていた。演歌歌手の美空ひばりだって歌ったくらいだ。ジャズを歌える歌手=名歌手だったわけ。ぼくらの世代から見ると、随分ジャズが誤解されていたような気はするけれどね・・・。
淡谷のり子は「ブルースの女王」と呼ばれたけれど、彼女が歌っていたのは全然ブルースじゃなかった。12小節でもなければ、ブルース進行でもない。ちょっと洋風でモダンな演歌とか、和風のシャンソンくらいな感じに聞こえる。一方で「ブギの女王」と呼ばれた笠置シヅ子が歌った「東京ブギウギ」はちゃんとブギウギになっていた。まあ、最近も全然サンバじゃない「マツケンサンバ」とかあるけど・・・。
そんな中で坂本九の音楽、中でも中村八大が作曲したヒット曲はちゃんと洋楽でありジャズだったんだよね。彼は早稲田大学在学中に、錚々たる初期ジャズメンを要したバンド「ビッグ・フォー」の一員でもあった。その後芸能界から引き合いがあったものの当時主流のエンタテインメント系ジャズには与せず、あくまで高度な音楽性を追求するためにビッグ・フォーに戻り、日本きってのジャズ・カルテットとして人気を博した。その後作曲家としての活動に主軸を移し、和製洋楽といえるような名曲を残したんだ。
代表作はなんといっても「上を向いて歩こう」。海外でも「スキヤキ・ソング」として知られる。ぼくがプロデュースを務めたミニアルバム「生命/さかもと未明」では、彼の「明日があるさ」をインスト・ジャズで収録した。1コーラス目はオリジナルに近いコード進行、2コーラス目は「Oleo」進行でプレイしたが、難なくメロディーが乗っているから面白い。良かったら是非聴いてみてね!
さて、昭和のテレビでは流行歌ばかりをずーっと歌い続ける、紅白歌合戦のような番組がたくさんあった。こうした歌謡ショーでは、ビッグバンドが華やかに歌手のバックバンドを務め、これがミュージシャンの主要な稼ぎ場所になっていた。
シャープス&フラッツやニューハードなど有名ビッグバンドがいくつもあって、片方では歌謡ショーで食い扶持を稼ぎ、他方では自分たちが本当にやりたいジャズのライブをやっていた。 アメリカのビッグバンド・ジャズがこんな形で日本に上陸し、独自にハイブリッドしていたのは面白いよね。
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B002OKTADC 和ジャズ・ベスト100
発売元:コロムビアミュージックエンタテインメント |
ちなみに、コロムビア・ミュージックがリリースした「和ジャズベスト100」は、美空ひばりや淡谷のり子始め往年の和ジャズが盛りだくさん。秋吉敏子、渡辺貞夫などの本格ジャズも収録されているほか、ぼくのトリオも1曲収録してくれた。興味がある人は是非聴いてね。次回はガラッと話題を変えて、3月に行ったエジプト〜ヨーロッパツアーの模様をお伝えします!
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<クリヤ・マコト・ライブ情報>
●TOKYO FREEDOM SOUL with MARU
4月13日(火) 青山BODY&SOUL(03-5466-3348)
出演:クリヤ・マコト(p)、鳥越啓介(b)、天倉正敬(ds)、ゲスト=MARU(vo)
●Bacharach Tribute - Jim O'Rourke with special guests
4/15(木)・18(日)@東京ビルボードライブ
4/17(土)@大阪ビルボードライブ
●RHYTHMATRIX春のツアー
出演:クリヤ・マコト(p)、コモブチキイチロウ(b)、安井源之新(perc)、村上広樹(ds)、
4/25(日) 目黒ブルースアレイ・ジャパン(03-5740-6041)
スペシャルゲスト=牧山純子(vl)
4/29(祝) 名古屋スターアイズ(052-763-2636)
4/30(金) 大阪ロイヤルホース(06-6312-8958)RHYTHMATRIX
スペシャルゲスト=たなかりか(vo)
5/01(土) 芦屋レフトアローン(0797-22-0171) RHYTHMATRIX
5/02(日) 二川アヴァンティ・スクエア(0532-41-7464
※詳しくは、クリヤ・マコト・オフィシャルサイトをご覧ください。
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http://members.jcom.home.ne.jp/tothemax/live/schedule.html
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