You Play JAZZ? http://www.youplay-jazz.com/

ハイブリッドジャズの歴史 -クリヤ・マコト-


第14回:シカゴからニューヨークへ

「禁酒法」といえば「アンタッチャブル」、「アル・カポネ」、「マフィア」と自然に連想すると思う。舞台はシカゴ。カポネはイタリア系移民のギャングで、スカ−フェイス(顔にキズがある)で、簿記の能力があった。禁酒法時代に密造酒製造販売、売春業、賭博業で成功し、警察や政治家を買収し、一大組織を築き上げてアンタッチャブルな存在になった。
シカゴでは彼らのようなギャングが経営する酒場で、アメリカ文化が華開いていた。闇酒場というとこぢんまりしたのを想像するかもしれないが、映画なんかを見るとカジノやボールルーム、レビューを見せる劇場なんかも併設した大型のナイトクラブも多かったようだ。
ニューオーリンズからミシシッピ川を北へたどっていくと、シカゴ付近にたどり着く。このルートで、多くのミュージシャンがシカゴへ移住し、禁酒法下の盛り場で仕事をした。こうしてシカゴへはディキシーランド・ジャズがもたらされ、ジャズの一大メッカになった。これを北部の白人青年達がマネをした。彼らは特に、ソリストをフィーチャーしたルイ・アームストロング・スタイルのビッグバンドを好み、独自に作曲・編曲を施して「シカゴ・スタイル」を確立していった。ここでビックス・バイダーベック、ベニー・グッドマンなど歴史に残るバンド・リーダーが登場し、白人の社交場へとジャズを広めた功績は大きい。

同じ頃、ニューヨークにも職を求めて黒人が移住していた。彼らは住宅建設ラッシュのため地価や家賃が暴落していた、マンハッタン北部のハーレムに集まって住み着くようになった。ここで、南部各地から集まった黒人たちの文化が一気に華開き「ハーレム・ルネッサンス」と呼ばれた。これはアメリカで始めて、かつて奴隷だった黒人たちが生み出した「ブラック・カルチャー」が、一つのまとまった文化として認識された瞬間と言っていいだろう。ここから多くの著名な黒人作家、詩人、画家、音楽家が生まれた。そしてこれをきっかけに、黒人文化がアメリカで生まれたアメリカ固有の文化として、白人社会から、さらには世界から注目を集めるようになっていった。
さて、そのハーレム黒人文化を売り物にした、有名な「コットンクラブ」というナイトクラブがあった。


  客は全員白人で黒人は入場禁止、その代わりにスタッフは全て黒人。いわば、白人にとって「黒人文化体験テーマパーク」的な場所だった。経営者はギャングで、酒類売買のため閉鎖になったこともあるからやはり「闇酒場」的な存在だったと見られる。だけど高度で個性的な文化を堪能できる高名なコットンクラブには、ニューヨーク市長からチャップリン、ガーシュウィンといった著名人も訪れた。
白人をターゲットにしていたから、ここでは徹底的に白人ウケする黒人ぽさが追求された。「ジャングル」をイメージしたショーが組まれ、低音のドラムをドコドコ刻む「ジャングル・ビート」のジャズに乗せて、半裸の女性ダンサー達が躍動感に満ちた独特のダンスを踊った。「コットンクラブ」のバンドリーダーはフレッチャー・ヘンダーソン、次いでかのデューク・エリントン、そして彼の後がまはキャブ・キャロウェイが務めた。ルイ・アームストロングも招かれて出演した。アイルランドのラインダンスが元になっていると言われる「タップダンス」も、ここでショーとして熟していった。そしてレナ・ホーン、ドロシー・ダンドリッジといった、黒人を代表する初期のディーバたちがこの店から巣立った。

その後、ニューヨークは大恐慌へと突入した。1929年の株価大暴落と共にナイトクラブへの客足も鈍くなり、ハーレム・ルネッサンスは一気に衰退していった。リーマンショック以降、最近のジャズクラブも大変だけど、当時のニューヨークはそれ以上だったろうね。ただアメリカは、大不況下に面白い政策をとった。ニューディール政策の一環として、芸術家の直接雇用と大規模な文化振興策を行ったんだ。この政策によってアメリカでは、やがてブロードウェイ、ハリウッドが飛躍的に発展し、フランスに変わって世界文化の中心地になったと言われている。
ハーレムの音楽もダンスも、エンターテインメントでありながら真に個性的でオリジナリティーに溢れており、マンハッタンを南へ下ったブロードウェイの舞台にも大いに影響を与えた。ニューヨークの評判を聞いて、シカゴなど各地のアーティストもみんなニューヨークへ流れてきた。白人ならベニー・グッドマンやグレン・ミラー、黒人ならカウント・ベイシーといった巨匠達だ。時は1930年代に入り、本格的な「スウィング」の時代を迎える。
余談になるけど、先日「人生(いのち)」というミニアルバムをプロデュースした。アーティストはマンガ家/コメンテータのさかもと未明さんで、ジャンルとしてはポップスになるんだけど、ぼくが全面プロデュースをしておりインストナンバーも4曲入っている。スムースジャズやスウィングの曲、ボサノバやゴスペルっぽい曲など。表題曲は、病気の人やその家族、周囲の人たちを励ましたいと言うコンセプトで作られた曰く付きの作品で、下記のURLで詳しいいきさつがわかる。興味を持った方は、是非聴いてみてね!
           「人生(いのち)」
 ※クリヤ・マコト・オフィシャルサイト:「imformation」
http://members.jcom.home.ne.jp/tothemax/information/information.html#inochi
  ※ブログ1:「人生(いのち)/さかもと未明」http://tothemax.cocolog-nifty.com/blog/2009/10/post-6034.html
※ブログ2:「人生」のジャケット:http://tothemax.cocolog-nifty.com/blog/2009/10/post-8853.html



<クリヤ・マコト・ライブ情報>
11/3(火) 鹿嶋スクラッチ(0299-82-7459):RHYTHMATRIX
出演=クリヤ・マコト(p)、コモブチキイチロウ(b)、安井源之新(perc)、村上広樹(ds)
11/5(木) 水戸GIRL TALK(029-225-0050):納浩一セッション
出演=納浩一(b)、村田陽一(tb)、クリヤ・マコト(p)、則竹裕之(ds)
11/20(金) 東京杉並公会堂大ホール(03-5347-4450)
「クリヤ・マコトproduce カーペンターズ〜デビュー40周年に捧ぐ〜」
出演=クリヤ・マコト(p)、渡辺真知子(vo)、平松愛理(vo)、椎名純平(vo)、峠恵子(vo)、
ブレンダ・ヴォーン(vo)、納浩一(b)、松山修(ds)、天野清継(g)、アンディーウルフ(sax)、
安部慶子ストリングス、ほか
11/21(土) 沼袋OrganJazz倶楽部(029-225-0050):クリヤ・マコト&河合大介・デュオ
出演=クリヤ・マコト(pf)、河合大介(org)
11/28(金) 土岐BIRD & DIZ(0572-55-5399):RHYTHMATRIX
出演=クリヤ・マコト(p)、コモブチキイチロウ(b)、安井源之新(perc)
11/30(月) 豊橋アルバトロス(0532-55-1016):クリヤ・マコト・セッション
出演=クリヤ・マコト(p)、コモブチキイチロウ(b)、村上広樹(ds)
12/3(木) 六本木ALFIE(03-3479-2037):TOKYO FREEDOM SOUL
出演=クリヤ・マコト(p)、鳥越啓介(b)、天倉正敬(ds)
※詳しくは、クリヤ・マコト・オフィシャルサイトをご覧ください。
http://members.jcom.home.ne.jp/tothemax/live/schedule.html

ハイブリッドジャズの歴史TOP(目次ページ)