第13回:第一次世界大戦とジャズ ニューオーリンズがジャズの一大都市になったのは、言うまでもなく当時ニューオーリンズが最も繁栄した、勢いのある貿易都市だったからに他ならない。ラテン系移民の街だったニューオーリンズは、ヨーロッパ・アフリカ地域からアメリカへ物資や人や文化が入ってくる入り口でもあった。実際、奴隷もアフリカ西海岸からカリブ諸国を経て、カリブ海からアメリカのデルタ地帯農園へと入ってきた。 地図を見ると、西アフリカとカリブ海が意外に近いのがわかるよね。大昔はアメリカ大陸とアフリカ大陸は陸続きだったって言われると、なるほど〜と思うくらい形も合っているのがわかると思う。また、スペイン・ポルトガルなどラテン・ヨーロッパ諸国から船に乗ると、海流に乗って自然にカリブ諸国へたどり着く。 ぼくはモロッコへ行ったことがあって、この辺りの文化の雰囲気は何となくわかる。北アフリカのイスラム文化=マグレブ文化と、イタリア〜ポルトガルへ至るラテン・ヨーロッパ文化がガチンコでぶつかり合う最前線だ。さらにもっと南の、「西アフリカ」の文化も混じり合っている。この雰囲気はおそらく、かつてのカリブ地域からニューオーリンズへ至る「アメリカ大陸の玄関口」の雰囲気に少し似ているんじゃないかと思う。つまり、まさに文化がぶつかり合う最前線だったろうと思う。 この混沌とした雰囲気こそが、新しい文化を生み出すための苗床になっていたんじゃないだろうか。当時のニューオーリンズはスペイン系、フランス系などのラテン・ヨーロッパ人と、アフリカから来た黒人が混じり合って暮らしていた。もちろん、貿易や商売に携わる北部の人間だって行ったり来たりしていたろう。そして長年の間にクレオールとか、メスティーソ、ムラート、サンボと呼ばれる混血の人々も増えていた(ムラート、サンボは現在では差別用語にあたるので注意!)。人種が混じり合うのと同時進行で、文化もどんどん混じり合い、ハイブリッドが進んでいったわけ。 いろんな人種の商人が集まり、取引をしたり遊んだりする場所だったから、ニューオーリンズはアメリカきっての繁華街だった。1897年に、当時市中にばらばらと点在していた娼館を一ヶ所に集めた、ストーリーヴィルという花街が誕生した。娼館には白人の娼婦と客がいて、黒人の女中や料理人やミュージシャンがいた。ここで黒人のバンドや白人のバンドが演奏し、白黒入り交じったビッグバンドも登場した。ボールルームでダンスを踊るために、ドラムのビートが利いた軽快で豪快な音楽が演奏され、これがジャズと呼ばれるようになった。こうしてディキシーランド・ジャズが花開いた。 ところが、ニューオーリンズの花街でこの新しいアメリカ文化が熟成している最中に、第一次世界大戦が勃発した。戦争が始まると貿易は制限され、遊びほうけている場合じゃなくなり、婦人団体などの抗議もあってストーリーヴィルは閉鎖されてしまった。すると、せっかく新しいスタイルと技術を身につけたアーティストたちが、ことごとく仕事の場所を奪われることになった。演奏する場が無くなってしまった黒人アーティストたちは、ニューオーリンズを離れ、職を探して北へと向かうことになった。 ちょうど工業化の波に乗り、軍需産業の職を求めて北へ向かった一般黒人達に交じって、アーティスト達も多くは下働きや工場労働から始めた。そうやって食い扶持を確保しながら、空いた時間で音楽の仕事もやった。こうしてニューオーリンズのジャズが北部へと広まっていった。 第一次世界大戦が終わると、まさしくアメリカの全盛期がやってきた。軍需産業で大金持ちになったアメリカは、投機に沸き、ヨーロッパ貴族達の向こうを張って遊びまくり、ローリング・トゥエンティー(狂騒の20年代)と呼ばれる時代を迎えた。ここでミュージシャン達も「待っていました!」とばかりに大活躍。20年代は同時に「禁酒法時代」でもあり、この法律によって遊び人たちは地下へと追いやられた。有り余るお金を持った遊び人たちが、「闇酒場(スピークイージー)」と呼ばれる場所へ潜って、夜な夜な金を使いまくったんだ。 こうしてNYやシカゴのギャングが荒稼ぎをし、映画やテレビで有名になったこの時代はまた、地下の「闇酒場」で開花した音楽=ジャズにちなんで「ジャズ・エイジ」とも呼ばれている。次回はこの時代にスポットを当てよう。(つづく) <クリヤ・マコト・ライブ情報> クリヤ・マコト・ピアノ・トリオ サイモン・バーカー(ds) ●クリヤ・マコト・ピアノトリオ 10/2(金):目黒ブルースアレイジャパン(03-5496-4381) 出演:クリヤ・マコト(pf)、早川哲也(b)、大坂昌彦(ds) 料金:前売=\4,000、当日=\4,500 ●Music of "SFKUaNK!!" 横浜JazzプロムナードSpecial 10/10(土):Motionblue YOKOHAMA ●クリヤ・マコトwithサイモン・バーカーfrom Australia 10/11(日):水戸ガールトーク(029-225-0050) ●たなかりか・CDリリース記念ツアー 10/13(火):静岡マーカムホール(054-366-2478) 10/14・15(水・木):大阪ミスターケリーズ(06-6342-5821) 10/16(金):倉敷クッキージャー(086-425-9901) 10/23・24(金・土):名古屋スターアイズ(052-763-2636) 10/30(金):渋谷JZ brat(03-5728-0168) ※詳細はこちらを→http://members.jcom.home.ne.jp/tothemax/live/schedule.html |