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ハイブリッドジャズの歴史 -クリヤ・マコト-


第6回:「Cool Japan」とハイブリッド

前回は「一体誰が聴くのか?」という所で終わったけど、これはミュージシャンにとって最も重要なテーマだ。誰に聴いてもらうのかというイメージが、明確にあればあるほど音楽はメイクセンスするものだから。そもそも音楽というのは、元来究極の抽象芸術で、誰も正確な意味づけをすることなんか出来ない。歌詞のある歌ならともかく、インストゥルメンタル音楽はまさに「抽象」だ。
音楽は抽象的であるにもかかわらず、人の気分やムードに多大な影響を与える。つい先日までぼくは映画音楽の制作をしていたんだけど、映像音楽ではそれがとても明確になる。同じシーンでも、音楽を変えるだけで不気味なシーンになったり怖いシーンになったり、哀しいシーンになったりと変わっちゃうんだよね。だからこそ、誰に、どんなイメージを伝えたいかというのは、音楽の動機とも結びつく極めて重要な要素なんだ。
最近ぼくが海外公演に出かけたとき、必ず直面する問題は「自分が日本人である」ということの責任だ。かつては、自分が洋楽であるジャズをプレイすることに何の疑問も持っていなかった。自由の国アメリカで、ジャズの現場ではほとんど民族的ルーツを問われることがないからだ。雑多な民族を抱えるアメリカでは、なに人だろうがなに教徒だろうが、どんな複雑な混血だろうがそんなことはほとんど関係なく、ジャズメンならジャズをやるのが当たり前だったからだ。

     「クリヤ・マコト・ピアノ・トリオ」
ところが、日本とアメリカ以外の国で公演することが多くなると、オーディエンスがぼくに「日本人である」事の意味を強烈に求めていることがわかってきた。彼らから見れば、「日本人」であるぼくが、わざわざ「アメリカの音楽」であるジャズを、日本でもアメリカでもない「第三国」でプレイすることの意味は曖昧だ。だから「日本人がプレイするジャズ」に特別なものを求める。日本人である事の意味を強く求められるんだ。言い方を変えると、オーディエンスは無意識のうちに「ハイブリッド」を求めているんだ。つまり普通のアメリカのジャズとも、自分たちの国のジャズとも違う、日本人のハイブリッド・ジャズを求めている。
アメリカでも、日本人のジャズメンが本当の意味で認められるのはとても難しい。これに関して詳しい話は次回に譲りたいと思う。ただ、ごく少数だけそれに成功したアーティストがいて、その代表といえるのが秋吉敏子さんだ。彼女は自分名義のビッグバンドを主催し、多くのアルバムをリリースしている。その成功をなしえた理由は、まさに日本人としてのアイデンティティーを強く打ち出したからだった。彼女は日本の伝統芸能の要素を取り入れた、ハイブリッドなビッグバンド・ジャズを生み出すことに成功したんだ。

最近はぼくの参加するRhythm Of Elementsも含めて、日本のクラブ音楽やオルタナティブ音楽、ジャズならジャム系とかクラブジャズなどが世界で受け入れられ易い傾向にある。その理由もやはり、これらの音楽が西洋音楽的フォーマットを使用しながらも、強烈な日本人らしさを放っているからだと思う。今や日本のイメージというのはかつてのゲイシャ・サムライじゃなくて、アニメ・ゲーム・マンガに代表されるサブカルチャーだからね。日本のキッチュな音楽もまた「Cool Japan」の匂いがプンプンするんだろうね。そういう意味では、世界に出て行くチャンスはまさに今かもしれない! ところで、ぼくは昨年日本のやんちゃな若いジャズメンと出会い、絶妙な組み合わせのニュートリオを結成した。一部では「またかよ」と言われてしまったが(^_^;)、人の出会いっていうのは本当にスゴイものだ。だって音楽のインスピレーションも、メンバーによって左右されちゃったりするんだからね。
例えばヨーロッパでもリリースした「クリヤ・マコト・ピアノ・トリオ」(写真上)について言えば、伝統に根付いたディープなピアノ・トリオは早川・大坂両氏のように、50〜80年代のジャズの良い部分も悪い部分も知り尽くした名手でなければ作り出せず、また彼らがぼく自身と音楽の趣味も似ているからこそ生み出せる相互作用だ。一方、今年ファーストアルバムのリリースが決定した「Rhythmatrix」に関しては、ブラジル音楽に精通したコモブチ・安井両氏の胸を借り、彼らにインスピレーションを受けて、ぼくが従来のジャズや世界で見てきた様々な音楽とのハイブリッドサウンドを創りたいと思って結成したラテンジャズ・ユニットだ。
そして今回ぼくが出会ったアーティストは、ある意味伝統的なジャズやブラジル音楽などのルーツを持たず、キャリアの最初からむしろ無節操なハイブリッドだった新世代。あえて言えば二人とも、ロックとポップスがルーツと言っていいかもしれない。だけど技術は素晴らしく、感覚も新しい。一緒に音楽をやる上で最も重要な要素、すなわち「身体と心で感じるままに行動し、頭ではナンにも考えない」って部分も二重丸だ(^_^)v。(ちなみにこれは、上記ユニットのメンバーも全員同じダヨ。)

     「TOKYO FREEDOM SOUL」
    そんなわけで即「TOKYO FREEDOM SOUL」(写真左)結成。新世代の彼らと、キッチュでやんちゃなニュージャズをやりたくなっちゃった。こういう衝動を抑えきれないのがミュージシャンってもんだ(笑)。このユニットのメンバー紹介及び演奏は、是非先月(鳥越啓介の巻)と今月(天倉正敬の巻)の動画連載を見て欲しい。彼らとディープなメインストリートジャズは出来ないけど、その代わり全く新しい感覚の音楽を生み出せるんじゃないかと期待してる。実際新世代のジャズメンはみんなロック世代で、近年話題をさらう若いジャズメンは必ずどこかロックの要素を持っていたりするのも事実。
ジャズは死んだという人々を尻目に、そんな世代がこれから新しいジャズを作っていくんだろうな。

というわけで、まだちょっと先だけど4月に上記「TOKYO FREEDOM SOUL」のライブをやります。その後まもなく「クリヤ・マコト・ピアノ・トリオ」もやります。両ユニットの違いを比べてもらうのはかなり面白いかも。さらに5月には、「Rhythmatrix」のプレ・リリース・ツアーを行います。そして先ほどちょこっと書いたぼくが音楽監督を務める映画は、「八月のシンフォニー」という劇場用長編アニメで、その名の通り8月公開。内容は若きシンガーソングライター川嶋あいの自伝を元に、高校生の少女が両親の死を乗り越えて歌手デビューするまでを描いた感動的なストーリー。みなさん、合わせてお楽しみに!(つづく)


<クリヤ・マコト・ライブスケジュール>
3/13(金) 鹿児島市民文化第2ホール(099-223-8426)
中川英二郎カルテット
3/14(土) 目黒ブルースアレイジャパン(03-5496-4381)
安井源之新まつり
4/08(水) 青山Body & Soul(03-5466-3348)
TOKYO FREEDOM SOUL with MARU
4/19(日) 調布・蛯澤珈琲店(042-488-1335)
クリヤ・マコト・ピアノ・トリオ

詳しくはこちらを→http://members.jcom.home.ne.jp/tothemax/information/info_other.html

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